チビザンとパパンとヴァイオリン -PocoXan e padre ed un violino-

何処からか柔らかい音が聞こえてくる。 その音で昼寝から目が覚めたザンは、お気に入りの縫いぐるみを握り締めながら音元を探しに出た。 てとてとと音を頼りに駆け足で向かったのはあまり行かない屋敷の西側。 その突き当たりのドアを押せば室内に人影がある。 それはザンに気付くと演奏を止めて振り向いた。 「パパン」 「起こしたか」 困ったように微笑むザンザスにザンは近付く。 手を上げて抱っこをねだれば軽々と体は宙に浮いた。 父親の腕に座り同じ目線から見れる景色に嬉しくなって抱き付けば、父の手に見慣れない物がある。 「パパン、さっきのなぁに?」 「ヴァイオリンだ」 持っていた楽器を見れば、それはいつもサロンの硝子張りの戸棚に飾ってある物だった。 口を酸っぱくしてスクアーロやルッスーリアに触るなと言われていたのは、 父の物だったからなのだろう。 おずおずと手を伸ばせば、気付いたザンザスがヴァイオリンを持たせてくれた。 それにザンの表情が明るくなる。 先程ザンザスがしていたように弦を押さえるが音は出ない。 「ならないね」 「ピアノとは違うからな」 抱き上げる為にテーブルに置いた弓を見せ、それで弦を擦るんだと説明してもザンは 不思議そうに首をかしげる。 やって見せた方が早そうだと思い、ザンをピアノの椅子に座らせるとヴァイオリンを構えた。 「二人は今何を習っているんだ?」 「えーと…きらきら星!」 週に二回のピアノ教室を思いだしザンは元気に告げる。 綺麗な長い指で譜面をめくる教師に、もう少ししたら新しい曲をやろうと言われた事も 父に告げれば良かったなと頭を撫でられた。 「ピアノは好きか?」 「うんっ。でもねそれの音もすき」 小さな指がさしたのはヴァイオリン。 もし気に入るようならば習わせても良いなと思いながらザンザスは弓を滑らせた。 弾いたのはザンが先程習っていると言ったきらきら星だ。 「ザン、ヴァイオリンだけじゃ寂しいからピアノを弾いてくれるか?」 「うんっ!」 ピアノの蓋を開け、小さな体には多き過ぎる鍵盤に向かう。 たどたどしく引き出したそのメロディに合わせる様にザンザスはゆっくりと弾く。 二人に合わせる様に周りの空気も心なしか軽くなる。 光の玉の様なメロディが空気を弾き、子供は笑顔で続きを紡ぐ。 最後の一音が空気にとけると満足気な息をザンは吐き出した。 「すごいたのしかった!」 「そうか」 「おれもバイオリンやりたい!」 「ピアノはどうするんだ?」 「どっちもしたい!」 目をキラキラさせて自分を見上げる息子にわかったと返事を返して頭を撫でてやる。 ザンはアロと違いあまり我儘を言わないからこれくらい聞いてやっても良いだろう。 決めたなら早い方が良いだろうと、ザンザスは馴染みの楽器屋に電話をかけたのだった。

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