薔薇 -rosa-
三年後の自分の誕生日に永遠の愛を誓おう
世界中の幸福を君に捧げよう
ヴァージンロードの終わりで俺は君を待っているから
秋の空は空気が澄んでいる。
窓から外を見上げていれば、ルッスーリアが時計に視線を落として溜め息を吐いた。
「遅いわねぇ…もうすぐ二時間よ」
「仕方ねぇよ。仕事だ」
「でもこんな日に遅れるなんて!結婚式ができなかったら皆無駄になっちゃうのよ!?」
「多分、今急いで向かってる筈だから、そんなにカリカリすんなよぉ」
小じわが増えるぜと言ってやれば、ルッスは慌ててパクトを取り出す。それに大笑いしてやりたかったのだけれど、化粧が落ちるから口を歪めただけで終わった。白い手袋に口紅がつくのもあれだから口を押さえることもできない。不便だと思っていれば、パクトを閉じたルッスが、ほぅ、と満足気な息を吐き出した。
「やっぱり綺麗だわぁスクアーロ。お人形みたい」
「喋らなければ、って続くんだろぉ?」
「良くわかってるじゃない」
二人で顔を見合わせて、次の瞬間一緒に吹き出す。
化粧が落ちると笑いを堪えていれば、ルッスーリアは跪いて優しく手を握りしめてくれた。八年ずっと俺の世話役を勤めてくれた彼の顔を見ればサングラスの奥に涙が浮かんでいた。
「おめでとうスクアーロ。妹をお嫁に出す気分よ。泣けてきちゃう」
「ルッスーリア……今まで」
「ストップ!それは私じゃなくてあの方に言いなさい」
立ち上がったルッスーリアがドアに視線を向ける。
つられてそちらを見れば優しい笑顔で立っている男がいた。
「テュール…」
「おめでとうスペルビ。世界で一番綺麗だよ」
「テュールっ!」
ルッスーリアが制止するのも聞かず、俺は椅子から立ち上がるとテュールに抱きついた。ドレスもメイクもぐちゃぐちゃになってもいい。感情がごちゃ混ぜになって泣き出してしまえば、テュールは昔と変わらず大きな右手で優しく背中を撫でてくれる。
「テュールっ…うぅーっ…」
「スペルビ、何も泣かなくていいんだよ。結婚してもスペルビは俺の娘なんだからね。さよならじゃないんだから」
「うんっ…」
幼い頃されたようにハンカチで顔を拭かれる。
俺は息を整えてから「今までありがとうございました」と頭を下げた。
テュールが居なかったら俺は夫と会えなかったし、全うな人間になっていたかもわからない。
だからありがとうとこれからもよろしくを込めて頭を下げたのだ。
顔を上げれば目の前の養父の目から涙が溢れていた。俺の視線に気付くと困ったように笑い、それを手で拭う。
それに俺の胸が締め付けられた。
「年を取ると涙腺が弱くなって駄目だね」
「…テュール抱っこ!昔みたいに抱っこしてくれぇ!」
「スペルビはパパンをぎっくり腰にさせる気?」
そう言いつつもテュールは俺を抱き上げてくれる。昔のように片腕では流石に無理で普通の横抱きだったけれど俺は満足だった。
ルッスーリアに写真を頼んで撮ってもらっていれば、荒々しくドアが開いた。
そこにいたのは息も絶え絶えな旦那様。
「す、まん…遅れた…」
「ザンザス!」
「!!?浮気する気かスクアーロ!」
「何で自分の親父と浮気しなきゃなんねぇんだよ!」
「ザンザス様それより早く着替えてください!皆様お待ちなんですよ!」
「スクアーロ!すぐ迎えに来るから待ってろよ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらレヴィに引きずられて行くザンザス。ドアが閉じた途端訪れた静寂に俺達は溜め息を吐き出した。
「相変わらずねザンザス様は…」
「…スペルビ…パパンものすごーく不安なんだが…」
「背は伸びたけど中身はあまり変わってないからなぁ。でもそこが可愛くていいんだぁ」
「あらやだノロケられちゃったわ」
ゴチソウサマ、と言うルッスーリアはテュールに俺を椅子に座らせるように言うとメイク道具を取り出す。
崩れたメイクを直し終わる頃に、係員から準備が整ったと連絡が来た。
立ち上がりテュールと共に大きなドアの前へ向かう。
ドアが開かれれば目の前には真っ赤なヴァージンロード。
その先で待っていてくれる青年に、俺は笑みが浮かぶのを止められない。
あの日の約束を現実にする為に、俺は赤い絨毯に足を乗せた。
これからも、ずっとずっと一緒に…
- continuous -