マーガレット -marguerite-

紹介された婚約者は、まだ10歳の子供だった。 借金や婚約者の存在ににパンク寸前だった俺の頭はそこで真っ白になる。 気を失う前に見たのは、慌てた表情の御曹司。 紅い目は、俺好みかもしれない… ***** 目を覚ましたのは本の中でしか見た事がない天蓋付のベッドの上だった。 服もいつの間にかネグリジェに変わっている。 制服以外にスカートをはかない俺にはスースーして仕方がない。 何か他の服はないかとベッドから降りれば、良いタイミングでドアが開いた。 「あらぁ、気が付いたのねぇ」 「!!!!?」 部屋に入って来たのは筋骨隆々の男。サングラスをしているから顔はわからないけど、どー見ても男。 だけど女言葉だしフリフリのエプロンを着けている。 それにまた夢だろうとベッドに戻ろうとすれば、大きな手に額を触られた。 「熱はないみたいね」 「あ、あの…」 「ああ、私はルッスーリアよ。ルッスで良いわ。貴方付の世話役よ」 もう少しまともな世話役はいなかったのだろうか。 そう思った俺の心がわかったのか、申し訳なさそうな顔をされた。 「ごめんなさいね。私貴方のボディガードも兼ねてるのよ」 「ボディガード…?」 「ええ。元々ザンザス様付だったのだけれど、ランチアやレヴィよりは私の方が良いだろうって」 「…レヴィって…あの頭ツンツンの…?」 「そうよ。あんなムサい男達より私の方がよいでしょう?」 サングラスの奥の目が微笑んだのがわかる。それにつられて笑みを返せば、 もう少し寝た方が良いとベッドに戻された。 「明日は何か予定があるの?」 「学校春休みだから…何も…」 「そう。ならゆっくり休みなさい」 ルッスーリアの声が疲れた体にしみる。 俺は睡魔に抗う事なく、再び眠りの国へと旅立った。 ***** きゃあきゃあと楽しそうな声で目が覚めた。 起き出して携帯を見れば、午前八時。そろそろ起きても良い時間だ。それに声の原因も気になる。 ベッド脇に揃えてあったスリッパに足を通すと、俺は声の聞こえた隣りの部屋のドアを開けた。 「あの…」 「あ、スクアーロ様!おはようございます」 「おはようございますスクアーロ様!ザンザス様からの贈り物ですわ」 俺は生まれて始めてメイドさんを見た。 そのメイドさん達は隣りの部屋にあるクローゼットに山程の服を詰め込んでいる。 殆どの服がスカートで、ヒラヒラのレースが付いていた。 ある程度詰め込んだメイドさん達は、こちらを振り向きニコリと微笑む。 「本日はどのお洋服になさいますか?」 「え、いや、自分で…」 「ご遠慮なさらず!今日はこちらのワンピースはいかがですか?」 「は、はぁ…」 「お靴もメイクも揃えさせていただきますね!」 キラキラしたメイドさん達に抗う術はなかった。 そのまま着せ替え人形のように着替えさせられ、メイクまでされる。 そして「皆様食堂でお待ちです」と食堂まで案内された。 案内された食堂は俺の家一階分くらいに相当する広さ。そのど真ん中に長いテーブルがあり、 親父と御曹司様が席についていた。だが席についているのはその二人だけではなく、 親父より年上だろう男と大学生くらいの男がいた。 とりあえず立っているのは履き慣れない靴では辛い。 メイドさんに案内されるがままに御曹司の向かいの席へと着席した。 目の前の御曹司は何故かパンにバターを付けた体勢のまま固まっている。 どうしたのだろうと首を傾げれば、男の大きな笑い声が響いた。 「あはははは!ザンザスどうしたんだ固まって!婚約者殿があまりに美人で惚れ直したか?」 「ちょっと父さん!お客様の前で失礼だろ!」 「客じゃねぇだろ。もうすぐ親戚になるんだから」 そう言われて思わず御曹司を見る。そうすれば少しうんざりしたような顔で、伯父と従兄弟だと告げた。 「俺は沢田家光。で、こっちが息子の綱吉。俺はグループの副社長で、綱吉は企画部の課長」 「え!?大学生じゃ…」 思わず出た言葉にまた家光は笑い出す。御曹司も肩を震わせて笑っているようだ。 その光景に綱吉は困ったように溜息を吐くと、もう大学は卒業してるんだと苦笑いをした。 「良く間違えられるんだけどね」 「す、すみません…」 「気にしないで」 「綱吉は母親似だからな」 「お話し中申し訳御座いません。そろそろ出社時刻です」 申し訳なさそうなランチアの声に、三人は慌てて時計を見ると立ち上がった。 そして何故か俺の親父も何やら仕事の打ち合わせを始めているが、 俺の不思議そうな視線に気付いた御曹司は、親父も一緒に出社するのだと告げた。 「親父も!?」 「現社長の秘書をしてもらう」 「親父には無理だろ!」 「だいじょーぶ大丈夫。任せとけ」 「そんなとこが心配なんだよ!」 「……スクアーロ」 「な、何だよ」 始めて名を呼ばれた事に緊張して思わず声が裏返る。 それに小さく笑った御曹司は、部屋の隅で控えていたルッスーリアを呼び寄せた。 「今日からお前の世話役はルッスーリアだ」 「よろしくね」 「加えてコイツらがお前の教師だ」 であえ、と手を叩かれて現れたのは沢山の女性。 嫌な予感がした俺の第六感は見事に当たった。 「この者達について学べば何処へ出しても恥じない立派な令嬢の完成だ。 俺の嫁になるのだから死ぬ気でこなせ」 爽やかな笑顔で御曹司が出て行けば、俺の教師達に囲まれる。 お茶お花社交ダンス礼儀作法英会話。 次々と紹介される教科に頭が痛くなった。 俺…ここに居たら死んじまうんじゃないだろうか…

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