マーガレット -marguerite-
夢を見た。
親父と二人で住んでた家がブルドーザーで壊される夢。
止めろと騒いで目を覚ましたら、そこは俺の家じゃなかった。
前住んでた家の倍以上ある自室。
飾られた調度品は額を聞くのも恐ろしいようなものばかりで掃除をする時に困っている。
はぁ、と溜息を吐きかけて慌てて手で口を押さえた。
溜息は吐いてはいけない。吐いたら幸せが一つ逃げて行く。
そう教えてくれた親父は今日も仕事でいない。殆ど朝にしか顔を合わせられなくなった。
家が広いから心もすれ違ってしまうらしい。
もう16だし寂しくなんてない。が、思い出すと気分が沈む。
随分とファザコンだったんだなと自嘲的に口元を歪めれば、
静かな空間を切り裂くようにノックが響いた。
「スクアーロ様、いらっしゃいます?」
「おー」
「ドルチェにしましょう」
「…何だそれは」
ワゴンを押して入って来たルッスの後ろに御曹司様もいた。
俺の婚約者だという子供は不思議そうに俺の手元を覗き込む。見た事がないのだろうか。
「これはな、ノートとシャープペンとプリントだ」
「それくらい知ってる。何をしていたか聞いているんだ」
「春休みの宿題だぜぇ」
「ああ…教師から帰る時に山程出され次の日忘れると廊下に立たされ帰る時再び山程出される
予習と復習の事か」
「まぁ…そうなんだけどよぉ…」
確かに間違ってはいないのだが、どこか違う。
どうにもこの御曹司様、学校へ行った事がないらしいのだ。
習い事は全て家庭教師を招き屋敷で行なっていたらしい。だからかどうも世間の事に疎い。
金持ちは変わった奴ばかりだなと思っていればルッスからお茶がはいったと声がかかった。
「今日のドルチェはミルクレープよぉ」
「すげぇ美味そう!」
「さ、ザンザス様もお座りになって」
「ん、おう」
プリントを見ていたザンザスはそれを持ったままこちらへ来る。
そして紅茶を一口飲むと答えが間違いが多いと言った。
「どうすりゃこうなるんだ」
「うるせぇ…難しいんだよ」
「教えてやろうか」
楽しそうな笑みを浮かべた御曹司の顔に頷きかけて、ふと気になる。
いつも側に二人の秘書を従えて仕事をしている筈なのに。
「お前仕事は?」
「………………………」
「休みなさいって二人に仕事を貰えなかったのよ」
体調管理も自分達の仕事です、とたまに二人は御曹司から仕事を取り上げるらしい。
確かにコイツはその辺のサラリーマンより仕事をしていると思う。
二人の言う事は最もだと思っていれば、御曹司は非常に不機嫌な顔をしていた。
この年でワーカーホリックってどうなんだと思っていれば、
御曹司は気まずそうに視線をそらして呟いた。
「休みなど…何をしていいかわかんねぇ」
驚いてその顔を見つめれば冷めた目をしている。
婚約者はまだ10歳の子供だ。それなのに休みに何をしたらよいかわからないなんて。
どう言ったら良いか困っていれば、御曹司はクツクツと笑い出した。
「お前、顔に出やすいな」
「う゛…」
「他人のこと気にする前に自分の事気にしろよ」
あんなプリントじゃ補習じゃないのかとニヤリと笑う。
そんなちょっと意地悪な婚約者に、宿題を教えてくださいと頭を下げた。
*****
「スペルビ〜ケーキ買って来た、よ…」
「だから何でそうなるんだっ!人間が変温動物なわけねぇだろボケ!」
「はいっ!」
「わかったぞお前実は魚類なんだな!?」
「うぅう〜…」
「ルッスーリア…どうしたのあの子達」
「スパルタ家庭教師とマゾ生徒の図かしら」
- continuous -