可愛いあの子

ざわざわと騒がしい廊下を歩き、数学準備室がある特別棟へと向かう。 挨拶をしてくる生徒達に返事を返せば、背後から女子生徒の黄色い声が聞こえてきた。 それが若いと思うということは、自分が歳をとったということだろう。 ――まだ22なんだけどなぁ 頭をボリボリとかきながら準備室のドアを開けて、スクアーロは息を吐き出した。 備え付けのソファに横たわっている生徒が一名。 熟睡しているようでスクアーロが室内に入っても起きる様子はなかった。 この学園の理事長の一人息子、ザンザス。 最近父親である理事長が体調を崩したらしく、執務を彼がこなしているらしい。 側近であるオッタビオが仕事はしなくていいと言っているのだが、この御曹司は無視している。 そして何故かスクアーロの使用している数学準備室で睡眠をとるのがザンザスの日課になっているらしい。 年の割りに幼い寝顔を見て溜め息を一つ。 「なーんで懐かれたんだか…」 他人をまるで信用しておらず、誰にも隙を見せない。 そんな御曹司が自分の前でだけ年相応の少年になる事がスクアーロは不思議だった。 自分は彼に何もしていない。ただ普通の生徒と同じように接していただけなのに。 だがそんなスクアーロの態度がザンザスには新鮮だったのだ。 幼稚園の頃から父の経営するこの学園に通っていた為、教師達が自分に意見するような事がなかった。 自分の機嫌を損ねて失職するような事は避けたかったのだろう。 そんな大人達の態度に嫌気がさし、わざと周りに威圧的な態度で接していた。 教師も生徒達も、ザンザスとは一線を引いていた。 だけどスクアーロだけが違ったのだ。 その態度にザンザスがどれほど救われたか、彼は知る由もないだろう。 今も怖がる事なく呑気にザンザスを寝顔を覗きこんでいる。 「っとにこの御曹司様はよぉ」 「…文句あんのか」 「そりゃ出席日数とか…って、う゛ぉおおいっ!」 「うるせぇ」 黙れとばかり身体を起こしたザンザスはスクアーロにクッションを投げ付ける。 それをスクアーロがキャッチすれば、始業を教えるチャイムが鳴り響いた。 「今何限だ」 「三限目開始だぁ。つーかお前担任の授業くらい出れねぇの?」 「今から聞いてやる。始めろ」 その前にコーヒー、と欠伸をしながら告げられる。 何処の世界に学校でコーヒー付の授業があるんだと思ったが、スクアーロは何も言わない事にした。 このまま文句を言えば髪を引っ張られるだろう。 流石に毎回毎回されてはハゲるのも時間の問題だからだ。 部屋の隅に置かれているコーヒーメーカーを操作しながら、 どうしてあんな奴に惚れてしまったんだと自己嫌悪に陥る。 ショタコンではなかったはずだと溜め息を吐けば、 何かを察したらしい御曹司に教科書を投げ付けられた。 (何考えてやがる) (な、なんでもねぇ!) (さっさとしなけりゃ保健体育の時間にしてやるぞ) (ま、待てぇ!)

- end -

スクはザンザスの担任 ザンザスが9代目にそうしてと頼んだのです(笑)

Yayoi Jugo