小説用テンプレートについて ...01

左手の薬指に結婚指輪を嵌めるのは、むかしそこから流れる血管だけが、 心臓に繋がっていると信じられていたから。 バタン、と僕は読んでいた本を閉じた。 馬鹿じゃない、こんなの。昔の言い伝えでしょ。 ねぇ、そうだよね、ベル。こんなのおかしいよね。 否定して欲しくて部屋の中を見回すけど、ワガママ王子の姿は見えない。 そういえば朝から任務だって言ってた。 もう、嫌になる。何でこんな時にいないのさ。 呟くと僕はソファから飛び降りて、一目散にサロンへ駆け出した。 サロンになら誰かいるかも知れない。 そんなの関係ないよって言って欲しい。 だけど期待を込めて飛び込んだサロンにいたのは、僕のママンだけだった。 「どーしたぁ、マーモン。そんなに慌てて」 僕に笑いかけてくれるママンの左手を僕は思わず凝視してしまう。 ああ、もう嫌だ。 喉の奥がツンと痛くなって、視界が歪む。 大きな涙が零れ落ちる寸前に、ママンは僕を抱き上げてくれた。 「どーした?怖い夢でも見たかぁ?」 抱きしめて背中をさすってくれる。 ぎゅうとしがみつけば、シャツからは日なたの匂いがした。 そのままグリグリと顔をこすり付けると、頬に何かが当たる。 顔を離してそれを掴む。 それはチェーンに通されたシンプルなリング。 ママンの大事な大事な指輪。 「スクアーロ…」 「なんだぁ?」 「何で、指輪、しないの…?」 問いかけた声は情けないことに震えていた。 僕の問いにママンはきっと困った顔をしていたと思う。 その証拠にいつもなら直ぐ答えてくれるのに、今回は数拍置いた後に喋りだしたから。 「えー…っとな、この指輪大事な物なんだよ」 「うん…」 「大事な指輪は、左手の薬指に嵌めるもんだって、昔何かで読んだんだよなぁ…」 「………そうなんだ…」 「俺の左手、コレだしよぉ。だから左手よりはぶら下げてた方がいいかと思ってな」 それに左手感覚無いから無くしそうだしよぉ、とママンは明るく笑った。 僕は馬鹿だ。聞かなきゃ良かった。 ぽたりと僕の涙が指輪に落ちる。 汚してしまって慌てて拭けば、フードの上から頭を撫でられた。 「……マーモンにだから言うんだけどよ」 「なに…?」 「指にするよりはぶら下げた方が、近いと思うんだよなぁ」 ココに、とママンは自分の左胸を指でつつく。 驚いて顔を上げれば、ママンの白い頬は僅かだけど赤くなっていた。 「カラダもキモチも一番大事なのはココだろ?……やっぱり女々しいか?」 「そんなことないよっ!」 少し表情を曇らせたママンに、慌てて僕は抱きついた。 左手に嵌めるのだって、元々は左胸と繋がる為。 それなら一番近くに置いた方がいいに決まってる。絶対その方がいい。 「スクアーロって実は結構頭いいんだね。見直したよ」 「褒められてるのか貶されてるのかわかんねぇぞぉ…」 「褒めてるんだよ」 きっと送り主だって同じ気持ちな筈だ。 指輪の裏側に掘られたX to Sの文字に僕は笑いかけた。

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昔どこかで読んだ本に左手の薬指の話が書いてありました。 つか記憶があやふやなので間違っている可能性が大きいです(汗) これも思いついて勢いで書きなぐったブツ。 ほのぼの親子。

Yayoi Jugo