三話 -terza storia-
ミンミン鳴く蝉と、ジリジリ照り付ける太陽が体力を奪っていく。
パタパタと下敷きで自分を扇ぎながら紙パックのジュースを飲む。
周りを見ればほぼ全員そんな姿だ。
「今日も暑いねー」
「夏休み明けたんだから涼しくなって欲しいですぅ」
「だよなぁ」
ズズ、と最後の一滴まで飲み干して俺は息を吐き出す。
こんなに暑い日はプールに入りたいのだが、生憎今日は体育が無い。
バサバサと胸元を掴み風を送り込むが、あまり効果はなさそうだ。
「ねぇ、帰りに風月堂で冷たい物食べていかない?」
「京子ちゃんそれグッドアイディアです!」
「スクちゃんは今日もバイト?」
「いや、今日は大丈夫だぜぇ」
「久々に一緒に遊べますね」
ニコリと笑ってくれる二人に俺も微笑み返す。
この二人とは一年の時に知り合って、それからずっと友達だ。
俺の家庭事情もわかってくれてるし、連休の時なんかは互いの家に泊まりに行ったりもする。
そんな親友の二人だが、俺は話せて無い事が一つあった。
「あっ!またこのモデルさん載ってます〜」
「テレビとかで話題になってるよねぇ。誰かわからないんでしょ?」
「関係者も極一部の人しかしらないそうですよ。ね、スクちゃん綺麗な人ですよね」
「そ、そうだな…」
ズイと目の前に差し出された雑誌。
そのモデルが最近あちこちで話題になっているようだが、何を隠そうそのモデルは俺なのだ。
メイクとカメラの腕で俺であるとは今のところバレていない。
だけどバレるのも時間の問題だろうから、さっさと足を洗いたいのだが、
恋人がそれを許してくれないのだ。
どうしたらよいのかと、俺は二人にバレないよう息を吐き出した。
*****
その日の放課後。
約束通り俺は二人と一緒に甘味処に向かっていた。
やはり夏だから夕方とはいえまだ日は高く暑い。
早く涼しい店内に入りたいと少し早足で歩いていれば、前を歩いていた二人が急に立ち止まった。
「どうしたんだぁ?」
「あ…スクちゃん…あの…」
「君達可愛いねーそれボンゴレの制服でしょ?」
「俺達とカラオケ行こうよ」
京子とハルの前を塞いでいたのは見るからに遊び人とわかる男達。
二人は可愛いからしょっちゅうこんな目にあっている。
「…悪いけど、二人共行かねーって言ってるから、通してくんねーか」
「あ?なんだテメェ。部外者はすっこんで…ってスカートはいてるぜコイツ!」
「はぁ!?マジ女かよ。デカ過ぎだろ」
「男じゃねぇのかぁ?」
一瞬怒りで我を忘れそうになったが、何とか我慢した。
が、次の瞬間胸に走った感触に頭が真っ白になる。
「お、一応胸あんじゃん」
「ギャハハ、お前それセクハラだってー」
「セクハラじゃねぇよ。つーか背の割に胸ねぇなぁ。ガキかよ」
「〜〜っっ…テ、メェ…」
―――バシャーン!!!
我にかえり俺が男達を殴り飛ばそうとした時だった。
いきなり男達の後ろから水が襲いかかり、奴等は見事にずぶ濡れになっている。
「な、なにしやがんだテメェ!!」
「暑そうだから水まいてやったんだ。感謝しろ」
ホース片手に涼しい顔で煙草をふかすのは俺の恋人だった。
近くの店から借りたのだろうホースを地面に投げ捨てると同時に男達と乱闘が始まる。
数分後、立っていたのは恋人だけで、残りはみんな地面に蹲っていた。
「立て」
「だ、駄目だ!」
蹲っている一人を蹴ろうとした恋人の肩に思わず抱き付く。
それに驚いた表情をされたが、次の瞬間には頬に手を添えられた。
「ザン、ザス…?」
「チッ…帰るぞ」
「なっ、待てよ!友達が…」
「泣いてるくせに何言ってやがる」
その言葉に驚いて頬を触れば、濡れている事に初めて気付いた。
それと同時に震えがきて、座り込みそうになる所をザンザスに抱き上げられる。
肩に顔を埋めれば、ザンザスの香水と煙草の匂いがして、酷く安心した。
だけど涙と震えが止まらない。
ザンザスがハルや京子と話をしているのはわかったけど、内容は聞き取れなかった。
会話が終わりそのまま歩き出される。
恋人が何でここにいたのか聞きたかったけれど声が出てこない。
俺の口からは嗚咽だけが溢れ、指は震えながらザンザスの服を握り締める。
時折背中を叩かれる掌の温かさに安堵した。
いつの間に自分はこんなに弱くなってしまったんだろう…
独りでも生きていけると、思っていたのに……
- continuous -