五話 -quinta storia-
ゴロゴロと転がっても広いのですぐに落ちる事のないキングサイズのベッド。
その上でオレは枕を抱き締め天井を見ていた。
ここはザンザスの家のザンザスの寝室。家主は只今海外で仕事をしており、ここ二ヵ月程会っていない。
そんな事はこれまでも日常茶飯時で気にした事などなかったのに、最近何故か居ないのが無性に堪える。
秋だから、なのかもしれない。最近やたらと町並も寂しく感じるからそのせいだ。
そう自分に言い聞かせるけれど効果は全く無い。
寂しい、のだと思う。
だけれど恋人に言える筈もなく、ただベッドの上でアイツが帰って来るのを待つだけだ。
部屋に染み付いていた煙草と香水の匂いも薄れてきている。
オレはアイツの痕跡を探すように、きつく枕を抱き締めた。
*****
「スクちゃん最近顔色悪いよ?大丈夫?」
「そうかぁ?」
「そうですよ!今日の体育のバレーでもいつものスクちゃんの華麗なアタックを拝めませんでしたし!!」
「あー…何か体調悪いんだよ」
次の日の昼休み。
いつものように京子とハルと一緒にメシを食っていたら、心配そうに体調を尋ねられた。
そんなにオレは具合悪く見えるのか?
確かに最近怠くて食欲ないのは本当なんだけど…
そんなことを思いながら紙パックのジュースを啜る。
中身はオレンジジュース。果汁100%が最近のブームだったりする。
不安そうな二人に心配するなと笑いかければ、隣のグループから甲高い声が響いてきた。
「うっそ、それマジで!?」
「マジマジ。アタシの友達その学校なんだけどさ、結構騒ぎになったんだってー」
「えぇーでもやだなぁ妊娠なんて。つか相手何歳?」
「同い年とか言ってたよ。その子は学校辞めたんだってさ」
ひそひそと交わされる会話だが席が近いから丸聞こえだ。
世の中は色々あって大変なんだな、なんて人事のように思っていたが、ふいに思考が停止する。
妊娠…?
確か保健で習ったが、妊娠すると体調悪くなるんだよな…
で、酸っぱい物が欲しくなるとか…
いや待てよ…そういう行為はしていたけど…確かに無いとは言い切れないけどいやちょっと待てぇ!!!
「す、スクちゃんどうかしたんですか?」
「あ、いや…」
「真っ青よ?やっぱり保健室行った方が…」
「いや大丈夫だから!」
京子の提案にオレはぶんぶん首を振り、大丈夫だと無理に笑ってみせる。
だがオレの背中には嫌な汗が大量に流れていた。
いや、大丈夫だ。ただの体調不良だ。つーかそうであってくれ!!
普段はちっとも信じちゃいない神にオレは死に物狂いで祈った。
*****
だけれど現実というのは残酷で、オレは自宅で検査薬を持ったまま固まるはめになってしまった。
見間違いだと目を擦ったり頬を抓ったりしたものの、陽性の事実は消えない。
どうしたら良いのだろう。
どうするのが最善なのだろう。
頭の中はパンク寸前で、トイレから出たオレは情けない事に座り込んでしまった。
オレが成人していたのなら、あまり悩む事なく、恋人に子供ができたと伝えられたのだろう。
だけどオレは未成年で…
どう…したらよいのかがわからない。
急に怖くなってきて、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
ザンザス…早く帰って来て…
暗い部屋にオレの嗚咽だけが響き渡っていた…
*****
ホテル最上階のスウィートルーム。
携帯が鳴ったかと思えばすぐに留守電に変わる。
『ザンザス…相変わらず電話に出てはくれないんだね。それでもいいが、
あの話は進めるからそのつもりでいてくれ。早くお前に会えるのを楽しみにしているよ』
聞こえてきた声にザンザスは手にしていたグラスに力を込める。
次の瞬間音をたててグラスは床に落ちた。
血の滲む手を気にする事なくザンザスは白い封筒を破り捨てる。
「何でもテメェの思い通りになると思ったら大間違いだ…」
滴り落ちる血と同じように赤い目が燃えているような光を放っていた。
- continuous -