六話-sesta storia-
子供ができたと判明してから三日が過ぎた。
俺は普通に学校に通い、普通にバイトをこなしている。
それでもやっぱり食欲は無いし、夜寝る事ができなくなっている。
体調は悪化するばかりだけどどうしようもない。ハルと京子を誤魔化すのも一苦労だ。
本日24回目の溜息を吐きながら下校していれば、車が静かに俺の横に停まった。
「スペルビ・スクアーロだね」
「………誰だテメェら」
「我々と共に来てもらおうか」
「名乗るのが先じゃねぇのか」
乗っているのは黒服の男達。
車の中から自分を見ているそいつらを、警戒心むき出しにして睨み付ければ、
思いがけない名を告げられた。
「我々はノルージャカンパニーの者だ。君とザンザス氏の事について話がある」
*****
恋人の名を出されれば断る訳にもいかず、俺は車に乗り込んだ。
連れて来られたのは超が付く程の高級ホテル。
広い部屋に通されればそこに先客がいた。
「何とも貧相な娘だ」
自己紹介もせずに言われたのがその言葉。
俺は目の前のソイツを敵と判断し、成金タヌキジジイと呼ぶ事にした(勿論心の中で)
タヌキジジイはジロジロとオレを見ていたが息を吐くとテーブルに置かれたアタッシュケースを開く。
するとそこには札束がギッシリと詰まっていた。
「200万ある」
「確かにありそうだなぁ」
「これをやるからザンザスくんと別れろ」
………今このジジイは何て言いやがった…?
思わぬ所で出た恋人の名にオレは反応を返せない。
するとタヌキジジイは足りないと勘違いしたのかもう一つケースを取り出し事の次第を説明し始めた。
「ボンゴレグループ御曹司とキミとでは釣り合わないよ。
彼にはグループを支えていく妻が必要なんだ。それはうちの娘が一番ふさわしい。
彼は不満そうだがきっとうちの娘より素晴らしい妻はいないと思ってくれるはずだ」
「つまり……何か?手切金って事かぁ……?」
「ああ。金輪際ザンザスくんには近付かないでくれないか。
何の遊びか知らないが、これ以上キミみたいなのに周りをうろつかれたら迷惑なんだ」
……普通はここで殴るべきなんだろうけど、生憎オレはそれができなかった。
心のどこかで納得できてしまう自分がいたから。
そりゃそうだ。遊びに決まってる。
ザンザスは社会人で、凄腕のカメラマン。俺はといえば極一般的な女子高生だ。
つーかアイツ御曹司だったのか。んな事も知らないで恋人なんて笑えてくる。
尚更釣り合わないではないか。
そこまで考えて、俺はそっと腹に手を当てた。
四百万あったら、ガキ産めるか…?
殺したくはねぇんだ。
遊びだったとしてもアンタが愛してくれたシルシだから。
静かに目を閉じればタヌキジジイの声が聞こえてくる。
「さあ、キミのすることはただ一つ。下の階にいるザンザスくんの所へ行って別れを告げてくるだけだ」
その言葉にオレは力無く頷く事しかできなかった。
さよなら、ザンザス。
オレは本当に愛してたよ。
ガキだったけど、精一杯アンタを愛したよ。
- continuous -